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【連載】プログラミングで子どもたちの未来をあと押し:第12回

第12回 プログラミングが育む身に付く力(非認知能力) 

東京都の小学校教諭、教育委員会指導主事、小学校校長などを歴任されてきた松田孝さん。学校現場をはなれた今も、自ら会社をつくり、自治体や民間企業と連携してプログラミング教育の普及に取り組まれています。

この連載では、これまでプログラミングの授業を実践してきた松田孝さんが見てきた「プログラミング教育によって変わる子どもたちの姿」や、元校長だから分かる「学校が抱える課題とその解決策」「大学入学共通テスト『情報Ⅰ』の最新情報」など、役立つ情報が満載!

今からプログラミングの授業をはじめたい先生方やプログラミング教育に関心がある保護者の方、必読です。

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プログラミングが育む身に付く力(非認知能力) 

前回までにIchigoJam BASICのカリキュラムをもとに、子どもたちがプチ探究的な「学び」を通して、プログラミングの知識(コマンド)と技能を身に付けていく様子を紹介してきました。しかしこのプチ探究的な「学び」で身に付く力は、それだけに止まりません。 

下図は、アニメーションプログラミングを通じて子どもたちが身に付ける力を一覧で示したものです。左と中央に示した知識(コマンド)と技能に加え、右に掲示してある非認知能力の獲得こそが、プログラミング体験で最も大切で、子どもたち一人一人に必ず身に付けてほしい力なのです。 

なぜなら、コンピュータテクノロジーが核となり爆速で激変していく社会では、唯一解を暗記して再生する力よりも、何が最適解なのかを常に問い続けるための非認知能力の醸成こそが、今一番求められる「学び」だからです。 

プログラミングは、ただコーディングの技術を学ぶのではなく、そのベースとなるアルゴリズム的な思考やデータ構造などについても理解を深めながら、最適解を求め、問題解決に向かう力を育むことが可能です。 

プログラミングでは、バグの修正が非常に重要です。 

作成したプログラムをいざ実行してみたら、バグが生じてプログラムが実行できないことは多々あります。その時に必要な力は、「粘り強さ」や「あきらめない力」なのです。子どもたちの意欲等の見えない力(非認知能力)を育むために、このカリキュラムが提示するプチ探究的なプログラミング体験は、新しい社会を形成する子どもたちに求められる力を育む絶好の学びの場です。 

また、子どもたち一人ひとりの取り組みや振り返りに対しての指導者の共感的理解が、非認知能力を育む大きな支援となります。 

様々な参考テキストの存在 

以前は子ども向けのIchigoJam BASICの参考書は多くありませんでしたが、現在はくもん出版から子どもたちに向けたIchigoJam BASICの参考図書が複数出版されています。 

まずは、「くもんのIchigoJamワーク①」「くもんのIchigoJamワーク②」です。IchigoJam BASICの開発者・福野泰介氏が監修したワークで、多くの楽しいプログラムが紹介されています。 

ここに紹介されているプログラムを順番に作成したり、自身の興味・関心に沿ってプログラムしたりするだけでも、その楽しさや奥深さに惹かれて、本連載で紹介したようにプログラミンング体験がコンピュータサイエンスへ子どもたちを誘うきっかけとなるはずです。是非お手にとって、試してみてください。 

さらに、筆者が記した「IchigoJamでできるテキストプログラミングの授業」では、これまでに紹介したカリキュラムに基づいて、実際に小学校からの現場で実践できる「指導書」です。先に紹介したカリキュラムにある「探究課題」を授業で、子どもたちが主体となって学ぶことができる構成となっています。 

これらの参考図書によるIchigoJam BASICでのプログラミング体験を通して、プログラミングはただコードを書くだけではなく、「自分のアイディアを形にしたりする」こと、つまりは最適解を求めて問題解決に向かうプロセスであることに気づくと思います。 

そして「問題を細かく分けて、少しずつ解決するのが楽しい」「エラーを直して、プログラムがうまく動いたときにうれしい」「課題にない機能を作るのがワクワクする」といった感覚が、さらなる探究心を育んでいくのです。 

「ゲームのしくみやデザイン」「アルゴリズムやデータの使い方」「プログラム全体の作り方」等々を通して、コンピュータサイエンスに興味・関心を抱き、子どもたち一人一人が自身のキャリアを考え、その形成に大いに役立てていってほしいと切に願っています。 

最後に〜生成AIとプログラミング 

現在生成AIにより、プログラミングの世界も大きく変革されていることがメディアでも報じられています。プログラミングの知識がなくとも、日本語などの自然言語でアイディアを伝えるだけでコードが生成され、サービスやアプリ作れるようになりつつあります。 

「もうコーディングの知識などはいらない」という声もありますが、注意が必要です。

まずは生成されるのはもちろんプログラムコードであり、それがどのような言語で生成されたコードで、どのようなアルゴリズムやデータ構造を使用しているのかの知識があれば、そのコードをより深く理解できます。さらには生成AIを活用すればプログラミングが効率化できる、という情報が多く目につくようになっていますが、逆にAIが生成したプログラムコードのレビューや修正に大きな時間がかかるケースも報告されています。 

今後生成AIのさらなる進歩、そして量子コンピュータの実用化など、社会の変化はさらに加速するでしょう。その中で必要となるコンピュータとのコミュニケーション能力を高めることこそ、より豊かで安全、そして平和な社会の形成者として必須の資質・能力に繋がるであろうと考えています。 

子どもたちがIchigoJam BASICでプログラミング体験をして、新しい社会の真の形成者として成長していくことを祈念して、本連載を締めくくります。 

全12回、お読みいただきありがとうございました。皆様の子育てや社会・時代認識を深めるきっかけとなれば望外の幸せです。

松田(まつだ)(たかし)さん

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO
小金井市立前原小学校・元校長

東京学芸大学教育学部卒業。上越教育大学大学院修士課程修了。東京都公立小学校教諭、指導主事、指導室長をはじめ、東京都の小学校校長を3校歴任。2019 年3月に辞職、4月に合同会社 MAZDA Incredible Lab を設立。総務省地域情報化アドバイザー、デジタル庁デジタル推進委員としてICTで教育に革命を起こすべく日々奔走。著書に『学校を変えた最強のプログラミング教育』『IchigoJamでできるプログラミングの授業』(くもん出版)がある。