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石川宏千花さん、兼森理恵さん 対談インタビュー 『拝啓パンクスノットデッドさま』(くもん出版)

2021/03/16 10:54

10代の読者に届けたい本

「なんにもないけどパンクはある」———若き読者におくる青春音楽小説『拝啓パンクスノットデッドさま』(くもん出版)刊行にあたり、作者の石川宏千花さんと、石川さんをデビューのときから知る書店員の兼森理恵さん、おふたりの対談が実現しました。作品への思いや、兼森さんから見た、石川宏千花作品の魅力についてもたっぷり語っていただきました。※本記事は「絵本ナビ」より引用したものです。

 

石川宏千花さん
兼森理恵さん(丸善丸の内本店)

 

【10代の読者に届けたい本】

――おふたりは石川宏千花さんが『ユリエルとグレン』(講談社)で2008年にデビューされた頃からの知り合いなのですね。

石川:私が作家デビューしたばかりの頃、当時兼森さんが働いていたジュンク堂書店新宿店でYA(ヤングアダルト)小説の書き手を集めたトークイベントに呼んでいただいたりして、もう10年以上のおつきあいですね。

兼森:私は大人になってから、“世の中にYAという10代の読者に向けて書かれた小説のジャンルがある”ことを知りました。「こんなにリアルでおもしろい作品がたくさんあるんだ。自分も思春期の10代に出会えていたらどんなによかっただろう」と思ったんですよ。だから、書店員として、YAをひとりでも多くの子どもたちに届けたくて、売場フェアや店内イベントを開催していたんです。

石川:今のお店(丸善丸の内本店)に異動されてからは「少年N」シリーズ(講談社)をずいぶん取り上げてくださったんですよね。

兼森:同僚の書店員たちと、棚の並べ方やパネル展示を工夫して、楽しかったです(笑)。「少年N」をはじめ、児童文学でありながらエンターテインメント色が濃い「死神うどんカフェ1号店」「お面屋たまよし」各シリーズ(共に、講談社)のような作品群も魅力的だけど、『UFOはまだこない』(講談社)あたりからのストレートなYAも、石川さんの作品の核を成すひとつですよね。
『わたしが少女型ロボットだったころ』(偕成社)もそうですけど、特にここ最近刊行が続く『青春ノ帝国』(あすなろ書房)、この『拝啓パンクスノットデッドさま』、『メイドイン十四歳』(小学館)の3作品は、これからの石川宏千花作品を形作っていくYA作品だなと思っています。

石川:その中で『拝啓パンクスノットデッドさま』はどうでしたか?

兼森:痛くて切なかった! 爆音に翻弄されながら、波に乗って運ばれていくような……文体と構造がすごいなと思いながら読みました。「ドン・ドン・ドン・ドン」とリズムが体に響いてきて、これは音の小説だなと。音楽好きな人が読んだら、もっと強くそう感じるんじゃないかな。

石川:実は私だけじゃなく、編集者やデザイナーさん、表紙のイラストを描いてくださった方も、パンクを知っている人たちなんです。偶然そんなありがたいメンバーで本を作ることができたから、逆に音楽をあまり聴かない人におもしろがってもらえるか心配でした。

兼森:パンク愛が溢れていますもんね。書店のYAの棚でも、ピンクの表紙は目を引くと思います(笑)。大丈夫、あまり音楽を聴かない私ももちろんおもしろかったです。

石川:それを聞いてほっとしました(笑)。

 

 

【青春=YA=パンク】

――これまでの石川宏千花さんの作品の中で、音楽小説と呼べるものは今作が初めてですね。なぜパンクをテーマに書こうと思ったんですか?

石川:もともとパンクが好きだったんです。自分にとってはパンクが、思春期に身につけていた鎧のようなものでした。学校で友達にはっきり言いたいことが言えないとか、男の子とうまくしゃべれない、先生のことを怖がってしまうかっこわるい自分を、「実はパンクっていうすごいものを知っている、パンクを聴く中学生という別の顔が私にはある!」と思うことで、みじめにならずにいられたのだと思います。
ワーッと騒げない子だったからこそ、代理で騒いでくれたり、過激なことをしているパンクな人たちを見て、思春期の屈折した心に折り合いをつけていたんですね。私にとっては、「青春=YA=パンク」なところがあるので、YAの書き手として、いつかパンクを書きたいと、ずっと思っていました。

兼森:パンクをどこで知ったんですか。友達が聴いていたとか?

石川:周囲にはパンクを聴いている人はいませんでした。最初は、本当に偶然だったんです。雑誌の表紙で、髪を逆立てて独特な見た目をしている人を見て「何だろう?」と興味を持ったんじゃなかったかな。『爆裂都市』という日本のパンクの元祖みたいな人たちがたくさん出ている映画もたまたま見つけて、その映画も好きでした。音楽そのものより、過激で驚かせてくれるものとしてのパンク、刺激物としてのパンクに先に出会い、好きになったんだと思います。

兼森:何年生くらいのときですか?

石川:はじめてパンクのレコードを買ったのは中1ですね。日本のパンクバンドでした。最初は恐る恐る聴く感じで、そのうち作家の町田康さんがかつて活動していたパンクバンドの「INU(イヌ)」を好きになったり。高校生くらいになると海外のパンクも聴くようになって、音楽としてのパンクをあらためて好きになりました。

 

晴己」という高1の主人公

【「晴己」という高1の主人公 】

兼森:私がパンクを聴いたことがなくても『拝啓パンクスノットデッドさま』を夢中で読めるように、石川さんが書く小説の主人公には、誰が読んでも共感できる何かがあるのがすごいところなんですよ。対象読者がボーダレスというか……たとえば書店員として石川さんの作品は、主人公が男女どちらでも、男女どちらのお子さんにおすすめしても楽しんでもらえると思っています。
でも今回はちょっとびっくりしました。主人公は高1の晴己。弟の中2の右哉の面倒を見ながら、ふたりだけで暮らしてる……。お父さんはいなくて、お母さんはいるんだけどあまりおうちに帰ってこないという物語設定なんですよね。

――「しんちゃん」というお母さんの昔からの男友達が、近所でお好み焼き屋の雇われ店長をしていて何かと様子を見に来てくれるけれど、基本的には小学生の頃からふたりで暮らしてきた晴己と右哉。晴己は、家事をしたりアルバイトを掛け持ちしながら、高校に通っています。

石川:物語を書きはじめたときは、弟の右哉が主人公だったんですが、うまくハマらなくて。だんだん、兄の晴己のほうが主人公になっていきました。

兼森:書いているうちに変わっていったんですか?

石川:そうですね、私はきちんとプロットを立てたりしないので、書きながらだんだん変わっていきました。
高校生くらいって、自分の特殊な環境にあきらめがついてきたり、何とか現実の中で折り合いをつけていこうという自我が芽生えはじめる年齢だと思うんですが、すぐ横には「(理屈なんか)全然わかんない!」という自由な中学生の右哉がいる。そんな兄と弟を描くことで、晴己が直面させられている、あきらめだったり、苦しさだったりが浮き上がってくるんじゃないかなと思いました。

兼森:晴己はスマホも持ってないし、お母さんが持ってくるお金と自分のアルバイト代でやりくりしながら、弟とふたりで暮らすという不安定な生活の中で、淡々と耐えていますよね。いつか弟の右哉だけお母さんに引き取られて、自分は置いていかれるかもしれないとどこかで覚悟しているところも、すごく切なかったです。

 


【大事にしてくれるのは親じゃなくてもいい】

――そんな晴己が何もかも忘れて「これさえあればいい」と思える唯一のものが、パンクなんですね。兄弟にパンクロックを教えた「しんちゃん」は、「こんな時代遅れのものを教えちゃって」と言いつつ、自分が好きなバンドをせっせと聴かせくれます。「ザ・クラッシュ」「ラモーンズ」「セックス・ピストルズ」「ダムド」……。晴己が中学生のときにはじめてステージに立ったのも、しんちゃんがバンド仲間に晴己を紹介したからで。

兼森:40代になるまで続けてきたバンド活動をやめてしまい、どうも晴己たちのお母さんに相手にされなかったらしいしんちゃんは、ダメな男なんじゃないの!?と思うけど(笑)、ずっと近くで見守ってくれていたしんちゃんが兄弟の救いになっている。でも、いざ高校生になった晴己が、同級生に誘われて、一日限りのバンドを組んで右哉とステージに上がることになったら、急に嫉妬してしまうんですよねえ……。情けない大人であるしんちゃんの葛藤も繊細に書かれていて、すごいなと思いました。

石川:大人って、子どもが思ってるほど大人じゃないんですもんね。児童書やYAで書いていいテーマなのかわからないけど。

兼森:ダメな大人もいるし、救いになる大人もいる。どうにもならないお母さんとの関係の一方で、しんちゃんとは未来へ向かって関係が変わっていく。それはやっぱり希望があるなと私は思います。嫉妬した後のしんちゃんと一晩中しゃべる夜、あそこで晴己が自分の足で立ったな、という感じがするから。

石川:そうですね。対等まではいかないけれど、しんちゃんと晴己が「人対人」になっていく、はじまりのところという感じですね。

兼森:ここは本当に、読んでいて痛かった。痛かったけれど、晴己自身はちゃんと右哉のことを大事にしてきたし、自分を大事にしてくれる人はお母さんやお父さんじゃなくていい、しんちゃんでも他の人でもいいんだと思える未来が感じられて「よかったー……」と思いました。

名前のない大変さ

【名前のない大変さ】

――晴己ほどの境遇じゃなくても、「現実を何もかも忘れたい」と思っている子はいるかもしれませんね。

石川:そうですね。つらい環境だと認識されていないような、ふつうの家庭の子でも、つらいさみしい思いをしていることはたくさんあると思います。誰からも同情されないし、「大変だね」とも言われないけど、本人はすごく苦しんでいる……「名前のない大変さ」ってあると思う。だから、私は、それぞれの子にとって切実な「大変さ」に、なるべく名前をつけないままで書きたいんです。
たとえば『わたしが少女型ロボットだったころ』の主人公の少女の症状は、名前をつけるなら「拒食症」なのかもしれない。晴己と右哉は「ネグレクト」されているのかもしれない。でもなるべくそういう言葉は使わないようにしています。

兼森:『拝啓パンクスノットデッドさま』は、唯一の自分の味方であるパンクから、希望を見いだしていく青春小説ですよね。でもその中にはいろんな問題が渦巻いているから、読むことで、ひとつひとつ、名前がつかない感情を「ああ、こういうことなのかも」と自分なりに考えたり受け止めたりできるんじゃないかな……と思います。自身の心と向き合うきっかけになるんじゃないかな。
とにかく音楽シーンもかっこいいし、恋や友情の予感もあるし、兄弟同士の関係性や、繊細な心情描写、スピード感のある文体も……読み心地がすごくいい! 読後感も爽やかさで気持ちいいんですよ。書き手としての石川さんのワザが効いていますよね。

石川:できるだけ10代の子たちに気持ちよく読んでもらいたいんです。なので、「かっこいい」って思ってもらえそうな登場人物や設定を意識してみたり。テーマが読みにくいものであればあるほど、楽しく読んでもらいたいと思って工夫しています(笑)。


【10代の自分に、今の自分を支えられている】

――『拝啓パンクスノットデッドさま』を何歳くらいの読者に読んでほしいですか?

石川:14歳のためのものを書きたいという思いはいつもあります。内容によってその年齢前後の子が読めるようにと、微調整はするんですけど。基本的には14歳の子が読んだときに、楽しんでもらえたり、何か考えるきっかけになったらいいな、本がその子の“避難所”みたいになったらいいなと考えています。

兼森: 14歳くらいって、将来のことをリアルに考えはじめる、ターニングポイントかもしれないですよね。今、好きなことを仕事にするのは難しいとか、好きだけじゃやっていけないとか言われることも多いけど、私は、子どもたちには夢見ることをやめないでほしいんです。だって、私は、好きなことを強みにすることが、どれだけ自分の人生で大事だったかということを、身をもって知っているから。子どもが世界に立ち向かっていくとき、武器になるのが、「好き」っていうシンプルな気持ちだと思うんですよね。

石川:人から与えられたものではなく、自分で見つけた「好き」は強いと思います。好きなものがある強さ、ってありますよね。

兼森:児童文学でもYAでも一番大事なのは、作品の最後に、未来や希望が感じられるかどうか。子どもたちがどんな境遇に置かれていても、その子たちの人生は、自分たちの力で打破して、前に進んでいけるよ、と伝えられる小説を、私は手渡していきたいです。
人生の最後まで、絶対に「好き」が味方になってくれるよ、と言いたいし、『拝啓パンクスノットデッドさま』をとおしてそれを感じてもらえたらうれしい。生きる希望になる小説だと思います。

石川:現実を無視することはできない。親や家庭環境を、子どもの力で変えることはできないけれど、小さなことにでも見いだせる光があるはずだという思いが、私がYAを書く根のところにあるのかなと思います。

兼森:なぜYAが好きなんだろうと考えると、私自身も10代の一時期、つらかったときのことに行き当たるんですね。塾には友達がいたけど、学校ではうまく行かなくて……でもあのとき感じたいろんな気持ちが私をつくっていったんだ、という確固たる自信が、今、大人になってあるんですよ。つらかったときに助けてくれたものもいっぱいあったし……。
だからその原点を確かめるために、YAを読むんです。10代の自分に支えられているから、今私はがんばれるんだよって思うから。

石川:「名前のない大変さ」の渦中にいるときは、本当に未来がないように思うかもしれないけど、ずっとそこにいるわけじゃないよ、と伝えられたらうれしい。小説を書くことを通じて、どこかにはあるはずの救いや未来を、うまく提示できたらと願っています。

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