menu open
ページの先頭へ

KUMON

くもん出版

なるほど!くもん出版

開発ストーリーや使い方など、意外と知られていない商品に関するお役立ち情報をお伝えします!
絵本・児童書

『しんかんせん!』発売記念(BAG ONE) 穂村弘さん×長谷川朗さん対談

2021/04/30 15:07

おふたりの出会いとグラフィックなおもしろさを生かした絵本への道

左から、長谷川朗さん、穂村弘さん

長谷川(以下、長):初めて穂村さんにお会いしたのは、僕がヴィレッジヴァンガード高円寺店で働いていたときに、サインを書きに来てくださったときでしたね。

 

穂村(以下、穂):僕は人の顔を覚えるのが苦手なんですけど、長谷川さんのことは一発で覚えました。髪型と雰囲気で(笑)。

 

長:1年後に中央線の車内で偶然再会して。西荻窪のチャサンポ―(西荻窪界隈で定期的に行われている街のイベント)のとき道でばったり会ったこともありました。その後たまたま「TOKYO ART BOOK FAIR」に出展した僕の絵を見てくださったんですね。

 

穂:その絵がすばらしくて。長谷川さんが絵を描いていることは、そのとき、初めて知りました。僕はアートディレクターの仲條正義さんのファンで、『もしもし、運命の人ですか。』(メディアファクトリー、現在は角川文庫に収録)は仲條さんにブックデザインしてもらっているんです。2014年に長谷川さんが大賞を受賞されたHBファイルコンペは、仲條さんが審査員をされていたんですよね。資生堂パーラーのパッケージデザインや他にもいろいろ有名な広告デザインをされている方です。

 

長:自分も仲條さんの作品が好きでHBコンペに応募したので、クリスマスの2、3日前のものすごく忙しいとき、店のレジに入っていたら突然携帯が鳴って「仲條正義賞大賞受賞おめでとうございます」と言われた瞬間、疲れが吹っ飛んだ覚えがあります。

 

穂:あらためてそんなお話をして、その後個展で絵を買わせていただいたりして。今回、長谷川さんの初めての絵本の文章をという依頼をいただいたときは喜んでお話を受けました。

 

長:ありがとうございます。

 

穂:実は僕は絵本コレクターのようなところがありまして……絵本をよく買うんですね。もともとグラフィカルなものが好きで、日本にももっとグラフィカルな絵本があったらいいなと思っていたんです。

いきなりグラフィカルな絵本の歴史の話になるんですが……ここに持って来たのは今から約100年前の1922年に、エル・リシツキ―という人が描いたロシア革命の理念を示した本です。黒い図形が混沌をあらわし、赤が秩序と光をあらわしている。難しい理念を子どもに伝えるために描かれたようですが、僕はこれをかっこいいなと思って。

他の作家にもグリム童話の「白雪姫」や、日本の昔話「かぐや姫」や「桃太郎」を図形であらわした絵本もあって、こうしたタイプの本を集めていたんですよ。

なので、長谷川さんの特殊な幾何学模様のビジュアルを活かすには、我々がよく知っている話と組み合わせる方法がひとつあるんじゃないかと思いました。

 

穂村さんが持っているのがリシツキーの絵本

▲穂村さんがもっているのがリシツキ―の絵本

 

▲かぐや姫のストーリーを図形のみで表現した絵本

 

長:仲條賞をきっかけに開いた個展で編集者に声をかけてもらったとき、当初イメージしていたのは、図形そのものを人格化したおはなしだったんですよ。四角と三角が仲良くしているところに丸が割り込んできて、ケンカして形がぐちゃぐちゃになる……みたいな(笑)。でもラフを見た穂村さんが、「図形の魔法の国みたいな設定より“みんながよく知っているもの”をわざと図形で描いたほうが、差異のおもしろさが生きるんじゃないか」と。

▲『しんかんせん!』以前に構想していた絵本のラフ

『しんかんせん!』はこうして生まれた

穂:そこから、たとえば子どもが初めて経験する一人旅で、新幹線に乗ってから降りるまでを描いたらどうだろうかという提案につながって、新幹線の「あるある話」をお互いに出し合っていきました。

話は「ある、ある」だけど、長谷川さんの絵で「えっ、これが新幹線?!」って驚きを楽しめるような色と形が描かれていたらいいんじゃないかなと。「えっ、これが富士山?」とか「これがお弁当?」とかね(笑)。あと個人的には、座席を倒すシーンがリアリティがあっていいなと気に入っています。

 

 

長:ここは座席の角度を計算式で割り出しました。新幹線車両内の参考資料を画像で探していたとき、この椅子の倒れ具合がいいなあと思って。原画の余白に4:8:1.2=260:X……とか鉛筆で書いた計算式が残ってます(笑)。

 

穂:すごいリアリズム(笑)。その一方で、最初はお母さんと自分以外の人はみんな、真っ黒なだんごみたいだよね。緊張している男の子には、他の乗客が真っ黒に見える。「えっ、これが人間?」とみんな思うでしょう。主観目線の風景を、抽象的な絵であらわしているんですね。

この感じ、自分も初めての外国に行くとまわりがこわい人間ばかりに見えるから、よくわかるなあと思って。こわいと思っていると周りがこわく見えるけど、最後は「なあんだ、みんな人間だったんだ」とわかる。

 

 

長:実はカラフルな人たちがいたよ!とわかる、最後の駅のシーンは描きたかった絵です。もともといろんな形の図形に目があるキャラクターをずっと描いていたので、どこかに入れたいなと思っていました。

 

 

穂:絵で苦労したところはありますか?

 

長:いろいろありますが、お弁当を図形でどう描いたらいいか、色や形をけっこう考えました。あと車内販売の絵も「ワゴン上にいろいろなものがたくさん載っている」感じをどういう角度で描いたら表現できるのか悩みました。

 

 

穂:最近は車内販売がない新幹線車両も多いみたいだけど、僕らの世代にとっては新幹線と言えば、乗務員がワゴンを押しながらの販売ですからね。打ち合わせのときに、駅弁のシュウマイ弁当の話をしていたんだよね。そしたら……絵本の中もシュウマイ弁当ですよね。水色のシュウマイの上にグリンピースがのってるの? 黄色は玉子焼きかな。ピンクのラインだけでカマボコに見えるの、いいですよね。ちゃんとカマボコに見えるもの。

 

 

長:実際のシュウマイ弁当でも、グリンピースがのってるシュウマイと、のってないのがあるらしいんですよ(笑)。最初は実際の色に近づけて描いたりもしたんですが、やっぱりおいしそうに見えるのがいいなと。最終的には真上からの構図にして、ごはんでなくおにぎりで、色は黄色にしたりしました。

 

▲お弁当のページの初期ラフ。完成形に至るまでの試行錯誤がうかがえます

 

穂:富士山の絵も、一般的には頂上部分があまりに有名なパターンでデザイン化されて、自動的に脳内変換されちゃうから、「あれ以外の富士山を初めて見た!」というおもしろさがありますよね。

 

 

長:よくある富士山にはしたくないので、「富士山だ!」と分かってもらえるギリギリのラインを探りました。

意識のズレを楽しむ、パラレルワールド

長:実際、最初にお話してから描き上がるまで4年以上かかってしまいましたね。なかなか描けなかったり、本屋の仕事の忙しい時期に入ってしまったりして、ずいぶんお待たせしてしまって……。

 

穂:絵本の場合、文と絵では作業量が違いすぎるから(笑)。

 

長:「新幹線あるある」のネタ出しのあとラフを描いて、穂村さんに見ていただいて、「こっちのほうがおもしろそう」とか「伝わりやすいかもしれない」というコメントをもらって描き変えて、を繰り返しているうちにどんどん時間が経って(笑)。でも穂村さんのほうでも文を加えてくださったところがありましたね。

 

穂:最初は他人が大きくこわく見えるから、対比で、僕とお母さんが小さめに描かれているんですよ。そしたら大人のお母さんだとわからないという意見があって「だいじょうぶだよ!ママ」と「ママ」を加えましたね。

あと「おしっこしたくなっちゃった」のところも、入れた方がよりわかりやすいかなと。文が長くなった分、ギザギザの通路のページに、2行で文が入って、よろよろした感じが出てよくなったよね。

レイアウトはデザイナーさんが考えてくださったんだと思いますが、男の子が夢を見るところも、文字が細くなっていたり……デザイン的にも細部まで発見があっておもしろいです。

 

 

長:穂村さんはいろんなデザイナーさんとお仕事されていると思いますが、僕は佐々木俊さんのデザインがすごく好きで、今回初めての絵本だからどなたか希望を出していいと出版社さんからお許しをいただいたので、佐々木さんにお願いすることができました。ものすごく嬉しかったです。

 

穂:表紙がすごいインパクトですよね。幾何学模様が目立ってて、「これ、新幹線!?」「……そう言われれば……そうかも!」って子どもも思うんじゃないかな。

 

僕も佐々木さんのデザインは大好きです。自分はブックデザインが好きすぎていろんな人とやりたくなっちゃうので、本をつくるたびに違うデザイナーさんにお願いしちゃうんだけど。

 

長:文章を穂村さん、デザインを佐々木さんにお願いできて、夢のようです。当初考えていたストーリーから「新幹線」と「初めての一人旅」とテーマが変わり、実際に絵本が世に出てみると……あらためてこのテーマに自分の図形の絵をのせたことで、おもしろさが広く伝わる絵本ができたんじゃないかなとしみじみ思っています。知人やSNSを通じて感想が聞こえてきて、あらためて感じています。

 

穂:ページをめくるたびに、多くの人のベースにあるリアルなものの印象と、目の前に展開する絵との距離感が意識されて、「え? これが?」というズレが、作品のいい味になりましたよね。

 

長:それぞれの場面の伝わりやすさはもちろん、僕が表現したい絵柄の「可愛らしい」感じも、ちゃんと穂村さんが言葉でも表現してくださって、いいバランスにしてくださったなと思います。

 

穂:どうですか、初めての絵本を描いてみて……。

 

長:中学の授業で手作り置き時計を作ったとき、機関車トーマスの顔を描いたんですけど、そのとき「将来の夢は?」と聞かれて初めて「絵本作家になりたい」と言葉にしたと思います。やっとここにたどりついたなと感慨深いです。でも夢が叶ったというよりは、目標が1つ叶ったという気持ちに近い。これからも絵本を描くことはつづけていきたいです。

 

穂:長谷川さんの絵でまず1冊できたことで、「だれもが体験していて、デフォルメできそうなおもしろいもの」がもっとある気がしてきました。長谷川さんの絵をとおして見える「パラレルワールド」がまだまだありそうでわくわくしますよね。何かいいアイディアがあったら読者のみなさんも教えてください(笑)。

 

 

東京・渋谷のブックカフェの2階で、なごやかに行われたトークイベント。オンラインでの参加者もあり、おふたりへの質問や、海外の新幹線に乗ったエピソードなども飛び出し、盛り上がりました。

穂村さんがこの日のために準備してきた貴重なグラフィック絵本や、長谷川さんが参考にしたという『あるひそらからさんかくが』(風木一人/作 中辻悦子/絵 福音館書店)や『ことばのえほん2 かっきくけっこ』(谷川俊太郎/作 堀内誠一/絵 くもん出版)なども提示され、参加者は興味津々。おふたりのファンはもちろん、絵本に関心がある方には至極ぜいたくな時間でした!

 

インタビュー・文:大和田佳世

一部写真はBAGONE様にご提供いただきました。

BAGONE様のyoutube チャンネルにてダイジェストも公開中です。ぜひご覧ください。

インタビューダイジェスト動画はこちら

 

 

このカテゴリの他の記事

なるほど!くもん出版とは

ロングセラー商品ができるまでの開発ストーリー、担当者が語る商品への想い、使い方のコツやヒント、お客さまから寄せられたお声など、楽しく読め、お役に立てるような情報を発信していきます。

商品カテゴリー(KUMON TOY、幼児ドリル)だけでなく、「開発ストーリー」「お客さまの声」といったカテゴリーでも読むことができます。

なるほど!くもん出版 トップへ