2006年8月1日
『スキ…』訳者のメッセージ

心に降り積もる、小さな「スキ」の物語
日常生活の小さな「スキ」の気持ちを拾い集めた、宝石箱みたいな本が刊行されました。翻訳は今、中高生に大人気の作家、森絵都さん。物語にこめられた訳者の思いをお届けします。
作:ミンヌ
絵:ナタリー・フォルチェ
訳:森絵都

拡大
バドミントンの羽根みたいな
スカートを、くるくる回すの
が好き。
一目で絵に魅了された。抗いがたい、と思った。私はこの絵本とかかわらずにはいられないだろう。実際にそうなり、少しずつ文章を読み解いていくうちに、どこか隅っこの穴から世界を覗いているような眼差しと、それを語る独特の息づかいにますます惹かれていった。
作者の二人について私が知るところはごくわずかだ。生年月日。国籍。経歴。そんなものは知っているうちに入らない。にもかかわらず本書を最後まで読み終えたころには、ふしぎと彼女たちをとてもよく知っている気分になっていた。そして彼女たちも私をよく知っているような。私たちは過去のどこかで何かを確実に共有した。恐らくこの絵本と出会った誰もがそう感じるのだろう。
あの子やこの子の胸につまった数々の「好き」をすくいとり、よけいな手を加えずにそっと私たちに差しだしている。
著者プロフィール
森 絵都(もり えと)
1968年、東京に生まれる。デビュー作『リズム』で、講談社児童文学新人賞、椋鳩十児童文学賞を受賞。『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、『アーモンド入りチョコレートのワルツ』で路傍の石文学賞、『つきのふね』で野間児童文芸賞、『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞を受賞。(以上すべて講談社)『カラフル』(理論社)で産経児童出版文化賞を受賞。『永遠の出口』(集英社)、『いつかパラソルの下で』(角川書店)など、著書多数。『風に舞いあがるビニールシート』(文藝春秋)で第135回直木賞受賞。
おおげさな「愛」はない。生きるの死ぬのの「恋」もない。そこにあるのはまだ世界に飽きを感じていない少女たちのみずみずしい感動だ。何もかもが目新しく、ちょっとしたことがうれしくて、おかしくて、好奇心の矛先に事欠くことがない。失う予感のかけらもない「好き」の数々は、だからこそ底ぬけにまぶしく輝いて見える。
「古いかちかちのチューインガムを見つけて、口の中でやわらかくするのが好き。」
本書の最後の一文だ。
私にとってこの絵本と向かいあうのは、まさに古いかちかちのチューインガムを口の中でやわらかくしていくような作業だった。しかも、それは噛めば噛むほど味も風味も豊かに募っていく、とても贅沢なガムだった。
バックナンバー
これまでの掲載記事を読むことができます。