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2005年9月1日

Vol.9『ビルはたいくつ』

退屈な毎日を送るビルが、ある日宇宙のまんなかに?! 愉快で奇想天外な絵本の登場です。‘たいくつ’に潜む‘わくわく’そんな世界の魅力を、訳者穂村弘さんが語ります。

ぶん・え:リズ・ピーション
やく:ほむらひろし

「ボンヤリ」と「ヘン」と「たいくつ」   ほむら ひろし


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たつまきで、
ビルは宇宙にひとっとび

 今、手元に「子供之友」の復刻版がある。婦人之友社の百周年企画として刊行されたものらしい。大正十四年四月号の裏表紙には、階段に腰かけた横向きの女の子と、その向こうに船の絵が描かれている。

 そして、こんな言葉がそえられている。

  ムカフ(むこう) ヲ 
  アンナニ オホキナ(おおきな) キセン ガ
  トホル(とおる)ノニ
  コノコハ
  シラナイデ
  ボンヤリ シテ ヰル(いる)
  ヘンナコダナ

 うーん、と思う。すごい。

 この組み合わせなら、例えば、汽船に向かって手を振っている子ども、みたいな構図になるのが普通ではないだろうか。文章の方も、わーい、お船だ、大きいなあ、いつかわたしも乗ってみたいな、とかなんとか......。

 そのような予想を完全に裏切って、汽船に気づかない子供がわざわざ描かれているところがすばらしい。女の子の無表情な横顔にときめく。

 「ヘンナコダナ」といいつつ、本当にそれを無価値と思うなら、そもそもこのような絵が描かれることはなかっただろう。作者は自らが記した「ボンヤリ」と「ヘン」の意味と可能性を確信していたはずだ。Tomのサインが入っているから、絵・文ともに村山知義* なのだろう。

訳者プロフィール

穂村 弘
歌人。主な著書に「シンジケート」(沖積舎)、「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」「短歌という爆弾」「世界音痴」(小学館)、「現実入門−ほんとにみんなこんなことを?」(光文社)など。
絵本の翻訳に「ちずのえほん」「ボタン」「なんでもひとつ」(フレーベル館)、「しましまゼビーのダイビング」(岩波書店)などがある。

 初めて『ビルはたいくつ』の原書をみたとき、表紙に描かれた犬のやる気のない表情に感動した。絵本なのに、こんなに堂々とたいくつそうなのはすごい。でも普通のやり方ではどうしてもやる気を出せない性格ってあると思う。わたし自身もそうだし、ビルもそうなんだろう。だから、「たいくつ」から脱出するために、こんなにも異常な体験が必要になったのだ。「ボンヤリ」や「ヘン」や「たいくつ」の奥の奥には極彩色でわくわくの宇宙があるんじゃないか。

*村山 知義―1901年東京生まれ。『子供之友』に挿絵を描くなど、画家・劇作家・演出家・舞台美術家として幅広く活躍した。

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